071 入団説明会

【2015〜2016/3 小学2年】

セレクションに受かった親たちは相当悩んでいた。通年皆さんがそうなんだろう。チームの本部に呼ばれて説明会があるそうで、これは是非話を聞いて、それから決めようじゃ無いかと。

チームSからは同じ学年がでかたを除いてちびたとちゅうたの二人、そして一つ下の学年がひとり、さらに一つ上に元々ひとり入っていたのに加えてもうひとり合格した。今回の説明会に出席するのは合計4人。

説明会が開かれる本部ってのはつまりチームWの本拠地。ちょっと遠いけどお父さんはひとり会場へ向かった。みんなとは現地集合。

説明があった。またも総監督のお話。なかなかに長かった。

詳しい話はコンフィデンシャルな感じなので伏せる。まぁつまりはこれからは所属選手になると。一生変わらない登録番号が与えられると。ただの習い事では無い。いろんな制約があり、いろんな義務もでる。親たちの負担もボランティアではなく義務の部分もあると。できるできないを精査して、よく検討してほしいと。スケジュールや予算やさまざまなことが詳細に説明された。

難しいな。正直相当いい状況でかつ相当な覚悟と準備ができる家庭じゃないと厳しい。仮にチームに入っても継続できない。ちゅうたのお父さんも同じような気持ちを持っていた。

もちろん入れてやりたい。でも相当に条件が厳しい。これはかえって難しくなったぞ。。。ちゅうたのお父さんとちびたP、この二人の表情はダントツで暗かったと思う。

帰り際玄関付近で呼び止められる。もし入ったらこの学年を担当するコーチとのこと。静かにゆっくりと話してくれる温厚な感じの大きな人だ。このコーチの話だと総監督の話は本当だけど、新3年生から入ってくるご家庭でそんなに意気込んでくる人はいない。何でも相談にのるからなんでも話してほしい、とのこと。

総監督も言っていたがこのチームは、入った人間は家族として面倒見るってスタンスを持っているらしく、長く深く厳しく付き合っていきたいということらしい。これは心強いかも。

思い切って切り出す。

「ちびたがなぜ受かったのかわかりません。やっていけるわけが無いと思う。」

コーチがゆっくり話し始めた。

「たしかに正直技術はありません。なんとなく楽しいことをカンでやってるだけ、っていうのは見て分かります。合格ラインにも実は入っていませんでした。でもちびたくんは私が総監督に直訴して合格に入れてもらいました。身体能力は十分ですし、なによりゴールの感覚というかセンスというか、点を取ることに関しては光るものがあります。是非私が直接指導したいと思ってとりました。困ったことや難しいことがあればチームとしても私個人としても出来る限り面倒を見ます。いつでも何でも電話ください。朝でも夜中でも必ず電話に出ます。」そういって携帯電話の番号を渡された。

あとから誰かに聞いたところ子供思いのとてもやさしいコーチで一番下の学年をまかされてるんだそう。なるほど、ちょっと胸が熱くなった。ただ、セレクション見ただけでそんなに思えるものなんだろうか?少し不安は残る。

お父さんはこう思っていた。

自分はコーチとしてサッカーを教えることはできない。その代わり、ゴールデンエイジに入った時に心身の準備ができている、つまり素晴らしい伸びしろを持っている選手にすることはできるはず。

3年生になって本当にサッカーを学ぶ事になったら、その時は当然コーチもしくはチームからサッカーを教わる。その時に、教える側が「教えがいがある」選手にしておくことが最大の目標。そしてその送り出す相手としての最初の候補がココなわけだ。

だからココがちびたを喜んで受け入れてくれるか。教えて楽しいと思ってくれるか。その一点だけを見ようと。

しかし具体的にクリアしなければいけない条件が重たい。これはちゅうたのお父さんも同じ思いで、コーチにどうしたらクリアできるか、私よりもかなり突っ込んで相談していた。たぶん入れさせてやりたい思いはウチよりずっと強いだろう。才能溢れる天才だし。

ウチとちゅうたのところ以外は不安いっぱいとはいえ大丈夫そうだ。多分入るだろう。問題は不安とか合う合わないとかではなく、実際問題、入団可能かどうか?に絞られた。


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